NPB版WAR(1.02)とMLB版WAR(fWAR/bWAR)の違いを初心者向けに解説

NPB版WAR(1.02)とMLB版WAR(fWAR・bWAR)の算出方法や評価指標の違いを初心者向けに比較し、野球の選手評価セイバーメトリクスを分かりやすく整理した解説記事のアイキャッチ図 セイバーメトリクス
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はじめに:なぜ「NPBのWAR」と「MLBのWAR」は同じように見えて違うのか

WAR(Wins Above Replacement)は、打撃・走塁・守備・投球など複数の要素を「勝利数」に換算してまとめる総合系の指標です。とても便利な反面、「同じ選手なのにサイトごとに数字が違う」「日本のWARとMLBのWARをそのまま並べてよいのか」と戸惑った経験のある方も多いと思います。

その理由は、WARに公式に1つだけ決まった式があるわけではなく、運営サイトとリーグ環境ごとに独自の計算方式を持っているためです。MLBではFanGraphsのfWARとBaseball-ReferenceのbWARが代表的で、NPBでは1.02 Essence of Baseball(DELTA社)が独自定義のNPB版WARを公開しています。

この記事では、NPB版WARとMLB版WAR(fWAR/bWAR)の違いを、初心者の方にも分かりやすい形で整理していきます。WARの基本そのものから読み直したい方は、WARの見方入門もあわせてどうぞ。

結論:NPB 1.02 WAR・MLB fWAR・MLB bWARの比較表

まずは3種類のWARの違いを表で整理します。

比較項目MLB fWARMLB bWARNPB 1.02 WAR
提供元FanGraphsBaseball-Reference1.02 Essence of Baseball
主な対象MLBMLBNPB
投手評価主にFIPベースRA9を出発点に、守備・球場・対戦相手などを補正主にtRAを土台に、先発・救援の代替水準差を考慮
野手守備2016年以降はFRVなどStatcast由来の守備評価を反映DRS中心UZRなど1.02独自データ
試合数162試合162試合143試合
代替水準MLB基準MLB基準NPB基準
単純比較bWARとは一致しないfWARとは一致しないMLB版とは単純比較不可

4列の比較表はスマホでは横スクロールになる場合があります。各セルは短くまとめているため、ヒーロー部分(比較項目)を見ながら左右に動かしてご覧ください。

  • NPB版WARとMLB版WARは、どちらが正しい・間違いというものではありません
  • それぞれのリーグ環境とデータ環境に合わせて設計されたWARです。
  • NPBのWAR6をMLBのWAR6と同じ価値として単純換算しないでください。
  • 比較するときは、同じ提供元・同じリーグ・同じ年度・同じ算出基準で見るのが基本です。
図解イメージで、NPB版WAR(1.02)とMLB版WAR(fWAR/bWAR)はリーグ環境やデータ環境に合わせて設計が異なり、単純換算せず同じ提供元・リーグ・年度・算出基準で比較すべきという初心者向けの注意点をまとめたビジュアル

WARの前提:リプレースメントレベル(代替水準)とは

リプレースメントレベル(代替水準)とは、主力選手が欠けたときに、大きな追加コストをかけずに用意できる代替選手に期待される成績水準です。WARは、その代替水準の選手と比べて、何勝分の価値を上積みしたかを示します。

  • WAR 0はリーグ平均ではなく代替水準です。
  • 平均的なフルタイム選手は代替水準より価値があるため、WARはおおむねプラスになります。
  • MLBのFanGraphsとBaseball-Referenceは代替水準のスケールを共有していますが、1.02はNPB環境に合わせて独自に設定しています。
  • NPBとMLBでは、リーグ構造・試合数・選手層が違うため、代替水準も同一ではありません

この土台の部分は、リプレースメントレベル(代替水準)とは?で詳しく説明しています。

MLB版WARの2大流派:fWARとbWAR

MLBで主流のWARは大きく2系統あります。違いを乱暴にまとめると、投手評価と守備評価の参照データが異なる点が中心です。

fWAR(FanGraphs):FIPとStatcast由来守備評価

  • fWARはFanGraphsが提供するWARです。
  • 投手WARは主にFIP(被本塁打・与四球・奪三振などを中心に算出)を土台にします。
  • 野手守備については、2016年以降のMLBデータでStatcast由来の守備評価への移行が進んでいます。
  • 現在は守備範囲・送球・捕手ブロッキング・捕手送球など、FRV(Fielding Run Value)関連の要素がWARに反映されています。
  • 古い記事にある「UZR中心のfWAR」と、現在のFanGraphsで表示されるfWARでは、守備評価の前提が変わっている点に注意してください。
  • 2015年以前のfWARや古い記事で説明されているfWARの守備評価は、現在表示されている2016年以降のfWARとは前提が異なる場合があります。

bWAR(Baseball-Reference):RA9ベースとDRS

  • bWARはBaseball-Referenceが提供するWARです。
  • 投手評価は実際の失点(RA9)を出発点にします。
  • 守備、球場、対戦相手、役割などを補正して評価します。
  • 野手守備ではDRS(Defensive Runs Saved)を用います。
  • fWARとbWARは、同じMLB内のWARでも評価の切り口が違うため一致しません

fWARとbWARの違いの詳細は、fWARとbWARの違いとは?もあわせてご覧ください。

NPB版WAR(1.02)とMLB版WAR(fWAR・bWAR)の評価軸の違いを示す比較図解で、打撃・走塁・守備・投手評価の算出方法やDRSなど守備指標の扱い、リーグ構造や球場補正の差異を初心者向けに整理した構成

NPB版WAR(1.02 Essence of Baseball)の特徴

NPBにおけるWARは、DELTA社が運営する1.02 Essence of Baseballが公開しているものが代表的です。1.02のWARは、打撃・走塁・守備・守備位置補正・代替水準対比価値・投手評価などをNPBのデータ環境に合わせて積み上げる指標です。MLB側のfWAR/bWARという略称と混同しやすいため、本記事では1.02側の内訳を「打撃評価」「守備評価」「投手評価」のように表記します。

NPB版WARの大きな特徴は、NPBの試合数・リーグ構造・球場特性に合わせて、得点期待値やリプレースメントレベルを独自に算出している点です。MLBのfWAR/bWARの式をそのまま日本に持ち込んでいるわけではなく、NPBの試合データから推定した係数を使っています。

  • NPBの得点環境に合わせたリニアウェイトを利用
  • 球場補正(パークファクター)もNPB球場のデータをもとに独自に算出
  • 守備指標はUZRをはじめ、1.02が独自に算出しているデータを用いる
  • リプレースメントレベルもNPBのリーグ平均との関係から定義し直されている

球場補正の考え方そのものは、パークファクターとは?もあわせて読むと理解しやすいです。

1.02の野手WARはどう積み上がるか

1.02公式のWAR(野手)解説に基づき、構成要素の主な考え方を整理すると次のようになります。

要素1.02での主な考え方
打撃評価PF補正後wOBAを用いたwRAA
走塁評価wSB + UBR(1.02ではBase Runningとして扱う)
守備評価UZRなど
守備位置補正ポジションごとの補正値
代替水準対比価値平均と代替水準の差を出場機会に応じて加算
勝利換算RARをRPWで割ってWARに変換

FanGraphsの現行2016年以降の走塁評価ではXBRが使われる一方、1.02ではwSBとUBRを組み合わせて走塁評価を行います。同じWARでも、走塁評価の構成要素が提供元によって異なる点に注意が必要です。詳しくは BsRとは?UBR・wSB・XBRとは? もあわせてご覧ください。

  • 1.02の構成要素は、NPBのデータ環境に合わせて設計されています。
  • MLBのfWARやbWARと似た考え方はありますが、同じ式をそのまま使っているわけではありません
  • 1.02の詳細式や係数はアップデートされる可能性があるため、公式ページを確認してください。

1.02の投手WARはどう評価されるか

1.02公式の投手WARでは、投手評価に守備から独立した失点率である tRA を用い、先発と救援で代替水準を分けて計算する設計になっています。主なポイントを表で整理します。

要素1.02での主な考え方
失点率の基準守備から独立した失点率を表すtRAを用いる
球場補正tRAには球場補正(パークファクター)が適用される
代替水準先発投手と救援投手で異なる代替水準を設定
RARの計算先発起用と救援起用で別々にRARを計算し、合算する
勝利換算合算RARをRPWで割って投手WARに変換
アップデート2024年のver.2.0.0で投手WAR算出時のリプレースメントレベルが変更された
  • tRAは守備の影響を切り離した失点率であり、投手単体の貢献を取り出しやすい指標です。
  • 先発・救援で代替水準を分けるのは、それぞれ求められる役割と代替選手の供給状況が異なるためです。
  • 細かい係数や代替水準の数値は、1.02公式の投手WAR解説で最新情報を確認してください。

1.02でもWARはアップデートで変わる

WARを見るときは、提供元だけでなく算出バージョンも重要です。1.02でも、ロジック更新によりWARの値が変わる事例が公表されています。

  • 1.02では、2024年のver.2.0.0アップデートで投手WAR算出時のリプレースメントレベルが変更されました。
  • 旧ロジックの投手WARは、WAR v1として併記されています。
  • 2023年のオリックス投手WAR合計は、旧ロジックの27.2から17.0へ低下しました。
  • この例から、WARを見る際は「どの提供元か」だけでなく「どの算出バージョンか」も重要であることが分かります。

具体的な数値や背景は、1.02公式の ver.2.0.0 データ集計ロジックの更新記事を直接ご確認ください。

NPB版WARとMLB版WARを比較するときの注意点

1. リーグをまたいだ数字の単純比較は危険

例えば「日本でWAR6だった選手はMLBでもWAR6相当」とは言えません。WARは「そのリーグの代替水準と比べた相対値」であり、リーグの選手層・得点環境・試合数(NPB143試合/MLB162試合)が異なる以上、数字をそのまま比較するのは適切ではありません。

  • NPBのWAR6は「NPB内で代替水準より6勝分上積みした」という意味です。
  • MLBのWAR6は「MLB内で代替水準より6勝分上積みした」という意味です。
  • リーグの競技レベルやデータ環境が違うため、同じ6.0でも同価値とは限りません
  • ただし、そのリーグ内でどれだけ突出していたかを見る指標としては有用です。

2. Statcast由来データの公開範囲・利用環境の違い

MLBではStatcast由来の打球速度、打球角度、守備・走塁データが広く公開・活用されています。一方、NPBではMLB Statcastと同じ粒度・同じ公開範囲のデータを一般ユーザーが利用できる環境ではないため、1.02では別のデータと手法で守備や走塁を評価しています。守備指標の前提知識としてDRSUZRの記事も参考になります。

3. 内訳の確認を忘れない

WARはあくまで複数要素を勝利数換算で総合した指標であり、サイトによって計算方式と値が異なります。打撃が良いのか、守備で稼いでいるのか、投手なら防御率系で稼いでいるのか奪三振系で稼いでいるのか — 合計値だけでなく内訳を必ず確認するのが鉄則です。

WARの合計値だけで判断せず打撃・守備・走塁・投球など内訳を確認する重要性を示した図解で、NPB版1.02とMLB版fWAR/bWARを比較する際のチェックポイントを初心者向けに整理した内容

NPB選手とMLB選手を比較したいときの見方

同じWARという名称でも、提供元やリーグによって意味が異なります。目的別の見方をまとめます。

やりたいこと見方
NPB内で選手を比較したい1.02の同じ年度・同じ指標で比較
MLB内で選手を比較したいfWARならfWAR同士、bWARならbWAR同士で比較
NPB選手とMLB選手を比べたいWARの数値そのものではなく、リーグ内順位・平均との差・移籍後成績を見る
MLB移籍後の期待値を考えたいWARだけでなく、年齢、球場、守備位置、三振率、四球率、打球指標、投手なら球速・奪三振・四球を確認
1.02の過去年と最新年を比較したい算出バージョンの更新有無を確認

まとめ

  • WARはサイトごとに計算方式が異なる総合系の指標です。「公式に1つの式」があるわけではありません。
  • MLBの代表はFanGraphsのfWAR(投手はFIPベース、野手守備はFRVなどStatcast由来の守備評価を反映)と、Baseball-ReferenceのbWAR(投手はRA9ベース、野手守備はDRS)です。
  • NPBは1.02 Essence of Baseball(DELTA社)が独自定義のWARを公開しており、得点期待値・リプレースメントレベル・球場補正・守備指標すべてがNPB環境に合わせて設計されています。
  • 1.02のWARは、ver.2.0.0のような算出ロジック更新で値が変わることがあります。
  • NPB値とMLB値を直接比較するのではなく、それぞれの環境内での相対評価として読むのが基本です。

参考文献

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