はじめに:盗塁数だけでは走塁の価値は分からない
「足が速い選手」「走塁が巧い選手」と聞いて、皆さんは誰を思い浮かべますか?盗塁王ならスタッツで一目瞭然ですが、ヒットで一気に三塁まで走る判断や、フライでタッチアップを狙うセンスは、なかなか数字に表れません。
そんなときに役立つのが BsR(Base Running) です。BsRは、平均的な走者と比べて、その選手が走塁で何点分の価値を上積みしたか、または失ったかを示す指標です。たとえば BsR +5 は「走塁だけで平均より約5得点分プラスだった」と読みます。チームに何点もたらしたかという総得点ではなく、平均的な走者との比較での得点価値として捉えるのがポイントです。
結論:BsR・XBR・wSB・0の意味を整理
細かい説明の前に、初心者がまず押さえたい結論を表で整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| BsRとは | 走塁による貢献を、リーグ平均の走者との比較で得点換算した指標 |
| 0の意味 | 平均的な走者と同程度 |
| プラス | 平均より走塁で得点価値を上積みした |
| マイナス | 平均より走塁で得点価値を失った |
| 現在のFanGraphs | 2016年以降はXBRとwSBを組み合わせてBsRを評価 |
| 旧来の説明 | UBR・wSB・wGDPを合算する方式 |
| WARとの関係 | 走塁の得点価値はFanGraphsの野手WARに反映される |
- BsRは「盗塁数が多い選手」を選ぶ指標ではなく、盗塁や追加進塁を含む走塁価値を見る指標です。
- 現在のFanGraphsを読むときは、従来のUBR中心の説明だけでなくXBRへの更新を理解する必要があります。
BsRとは?平均的な走者より何点価値を生んだか
BsRはFanGraphsが公開している走塁指標で、その名のとおり走塁による得点価値を表します。重要なのは、BsRが総得点を表す指標ではなく、リーグ平均の走者との差を得点単位で示す指標であるという点です。
- BsRが 0 なら、平均的な走者と同程度の走塁価値。
- BsRが プラス なら、平均より走塁で得点価値を上積みした。
- BsRが マイナス なら、平均より走塁で得点価値を失った。
「走塁が巧い」のニュアンスを、感覚ではなく得点単位で比較できるのがBsRの強みです。

BsRで評価できるプレー:盗塁・追加進塁・走塁死
BsRは「足の速さ」だけではなく、走塁判断を含む価値をまとめて評価します。盗塁数だけでは見えない、次のようなプレーが反映されます。
- 単打で一塁から三塁へ進む
- 二塁から単打で本塁へ生還する
- 外野フライで適切にタッチアップする
- 進塁できない場面で無理をせず走塁死を避ける
- 盗塁や盗塁死によって得点機会を増減させる
盗塁数は多くても走塁死が多ければ、トータルの走塁価値はそれほど高くないかもしれません。逆に盗塁を多くしなくても、追加進塁の判断が良ければBsRはプラスに振れます。
現在のFanGraphsのBsR:XBR + wSB
FanGraphsは2024年のWAR更新で、2016年以降について、従来のUBRとwGDPをStatcast由来のXBRへ置き換えました。さらにFanGraphsは、現在のBsRについて、XBRとwSBを組み合わせた走塁総合値として説明しています。
現在のBsRの考え方(2016年以降)
BsR = XBR + wSB
- XBR:Statcast由来の追加進塁に関する走塁価値。
- wSB(Weighted Stolen Base Runs):盗塁・盗塁死による得点価値。
2016年以降のFanGraphsを読むときは、この組み合わせを前提に値を見るのがおすすめです。
旧来のBsR:UBR + wSB + wGDPとの違い
FanGraphs Libraryでは、過去にBsRが次のように説明されていました。XBRが導入される前の構成です。
従来のBsRの説明
BsR = UBR + wSB + wGDP
- UBR(Ultimate Base Running):盗塁以外の走塁価値。
- wSB:盗塁・盗塁死の価値。
- wGDP(Weighted Grounded Into Double Play Runs):併殺回避に関する価値。
旧来の式は、現在のBsRを説明する主な式としては使われなくなっています。指標の歴史や、過去のFanGraphs解説を読み解くための補足として捉えてください。旧来のUBR・wSBの考え方を詳しく知りたい方はこちらもあわせてご覧ください。
XBRとBaseball SavantのBaserunning Run Value
XBRがなぜ登場したのかも押さえておきましょう。
- XBRはStatcast由来の走塁評価で、追加進塁の価値を得点換算します。
- 走者の速度だけでなく、外野手の送球、走者位置、ボールとの距離などを踏まえて進塁機会を評価します。
- Baseball Savantには、盗塁と追加進塁をまとめた Baserunning Run Value のリーダーボードがあります。
FanGraphsのBsRとBaseball SavantのBaserunning Run Valueは近い目的を持ちますが、同じ名称・同じ指標として混同しないようにしてください。提供元によって対象範囲や算出方法が異なります。
wSBの得点価値の捉え方
BsRの内訳のうち、盗塁・盗塁死に関わるwSBの読み方も押さえておきましょう。
- 盗塁成功はプラスの得点価値を持ちます。
- 盗塁死は、盗塁成功のプラス以上に大きなマイナスになりやすいのが一般的です。
- そのため、盗塁数が多くても失敗が多ければ、走塁価値が高いとは限りません。
- 具体的な得点価値は、指標の仕様やシーズンの得点環境によって異なります。固定値として暗記する必要はありません。
盗塁成功率と得点期待値の関係は、盗塁の損益分岐点で詳しく解説しています。
BsRの読み方と目安
FanGraphs Libraryのガイドに沿った、シーズンBsRの目安を表で整理します。
| BsR | 目安 |
|---|---|
| +8 | Excellent |
| +6 | Great |
| +2 | Above Average |
| 0 | Average |
| -2 | Below Average |
| -4 | Poor |
| -6 | Awful |
- BsRは累積指標であり、走塁機会が多い選手ほど値が大きく動きやすいです。
- 1年だけで走塁能力を断定せず、複数年の傾向も確認すると安心です。
- 9〜10得点程度が、おおむね1勝分の価値に相当する目安です。
- 数値は大まかな評価帯として読みましょう。

公式数値で見る走塁巧者の実例
FanGraphsの最新リーダーボードでは、走塁巧者として知られる選手がBsRで大きなプラスを記録しています。代表例として挙げられるのが、ナショナルズなどで活躍したトレイ・ターナー選手です。Statcastデータが揃った2016年以降、Baseball SavantのBaserunning Run Valueでも大きなプラスを継続的に記録してきた選手として知られます。
具体的なシーズン値は、編集時点でFanGraphsの選手ページまたはBaseball Savantのリーダーボードを直接ご確認ください。盗塁数だけでなく、追加進塁や走塁死を含めた価値として読むのがポイントです。
- FanGraphsのBsRと、Baseball SavantのBaserunning Run Valueは、近い目的を持つ別指標です。
- 同じ選手でも、提供元によって表示値や対象範囲が異なります。同じ指標として混同しないでください。
- 具体的な数値を引用するときは、サイト名と年度を必ず併記しましょう。
WARとの関係:走塁価値の二重計上に注意
走塁の得点価値は、FanGraphsの野手WARに組み込まれます。ただし、2016年以降の現在のFanGraphsでは、従来のUBR・wGDP部分がXBRへ置き換えられている点に注意してください。
- WARを確認済みの選手について、BsRを別途足して総合価値としないでください。走塁価値を二重計上することになります。
- WAR全体の詳しい読み方はWARの見方入門でまとめています。
NPB・1.02のBsRを見るときの注意点
NPBでも、DELTA社が運営する1.02 Essence of Baseballが走塁指標を公開しています。
- 1.02では、UBRとwSBの合算値をBsR(Base Running)として走塁総合評価に利用しています。
- 一方、現在のFanGraphsでは2016年以降のBsRについてXBRとwSBを組み合わせて評価しています。
- 同じ「BsR」という名称でも、提供元によって構成要素が異なるため、MLBとNPBの値をそのまま横並びに比較しないでください。
- NPB選手同士を比較する場合は、同じ提供元・同じ年度・同じ算出基準の値で比較するのが安全です。
BsRの限界:累積指標・機会数・単年のブレ
- 打席数(機会)に依存します:走塁機会自体が少ない控え選手は、巧くてもBsRが伸びにくいです。レート換算したい場合はBsR/600PAなどに直して比較しましょう。
- 単年のブレに注意:走塁判断は機会の偏りや一過性のミスでも変動します。1年だけで「走塁が下手」と断定しないようにしましょう。
- 役割や戦術の影響:チームの作戦や打順、対戦投手などによって、走塁機会の質は変わります。
- BsRは推定値です:小数点以下の差で優劣を断定するより、評価帯で読みましょう。
まとめ
BsRは、平均的な走者と比べてその選手が走塁で何点分の価値を上積みしたか(または失ったか)を表す指標です。現在のFanGraphsでは、2016年以降についてXBRとwSBを組み合わせてBsRを算出しており、従来のUBR・wGDP中心の説明とは異なります。
Baseball SavantのBaserunning Run Valueと混同しないこと、WARとの二重計上に注意すること、そしてNPBの1.02では別の構成でBsRが提供されていることを意識すると、走塁指標の読み方がぐっと安定します。打撃や守備の指標と並べて、選手の総合像をバランスよく眺めてみてください。
参考文献
- FanGraphs Library: BsR
- FanGraphs: 2024 FanGraphs WAR Update
- FanGraphs: A First Look At Statcast’s Stolen Base Leaderboards
- Baseball Savant: Baserunning Run Value Leaderboard
- 1.02 Essence of Baseball: UBR(Ultimate Base Running)解説
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