はじめに:打点だけでは分からない「得点を生み出す力」
RC(Runs Created、ランズ・クリエイテッド)は、セイバーメトリクスの父と呼ばれるビル・ジェームズが1970年代後半に考案した、打者の攻撃による得点創出を推定する古典的指標です。日本語では得点創出値と訳されます。
打率や打点では「この打者は1年間でチームに何点もたらしたのか?」が直接わかりません。RCは、打点と違い、打順や前走者の状況に大きく依存せず、打者の攻撃成績から得点創出を推定する指標として登場しました。現代のwOBAやwRC+を理解するうえでも、重要な出発点になります。
ただし、RCには複数の計算式があります。数値を見るときは、どの式で算出されたかを確認することが大切です。
結論:RCの意味・基本思想・注意点
細かい説明に入る前に、要点を表で整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| RCとは | 打者が攻撃で何点分の得点を創出したかを推定する指標 |
| 考案者 | ビル・ジェームズ |
| 基本思想 | 出塁する力 × 塁を進める力 ÷ 機会 |
| ベーシック版 | 安打・四球・塁打・打数で計算する |
| 拡張版 | 盗塁、盗塁死、死球、併殺打などを含む式もある |
| 注意点 | RCには複数の式があり、式が違えば数値も変わる |
| 現代の比較 | 球場・リーグ補正を含む比較にはwRC+が使いやすい |

RCとは?ビル・ジェームズが考えた得点創出指標
ビル・ジェームズは「得点という現象は、結局のところ『出塁する能力』×『塁を進める能力』で決まる」というシンプルな洞察をRCの土台にしました。RCは、この発想を電卓で追える式に落とし込んだ古典的指標です。彼の歩みについてはビル・ジェームズとマネー・ボールの物語もあわせてどうぞ。
なぜ打率・打点だけでは足りなかったのか
伝統的な打撃指標には、それぞれ「測れないこと」があります。
- 打率:ヒットの種類(単打もホームランも同じ1本)を区別せず、四球も無視します。
- 打点:前の打者が出塁してくれないと稼げず、打順や仲間の出塁率に大きく依存します。
- 本塁打数:長打力は分かっても、出塁能力やコンタクト能力は見えません。
このあたりの問題は打率・打点・勝利数の限界でも詳しく扱っています。「打者個人がチームの得点にどれだけ貢献したか」を素直に伝える指標として、RCが登場しました。
ベーシック版RCの基本式
RCの最も基本的な式(ベーシック版)は、「出塁 × 進塁 ÷ 機会」というシンプルな3ピース構造で表現できます。
RC = (A × B) ÷ C
A = 出塁能力 = H + BB
B = 長打を含む塁打による進塁量 = TB
C = 打席機会 = AB + BB
H : 安打
BB : 四球
TB : 塁打(単打1 + 二塁打2 + 三塁打3 + 本塁打4)
AB : 打数
変数の意味を改めて整理すると、Aは「ベースに出る回数」、Bは「打者が安打によって得た塁打数」、Cは「打席機会」です。Aの中身は出塁率(OBP)の分子、Bは長打率(SLG)の分子に近い形をしていて、AとBを掛けてCで割ると「OBP × SLG × 機会」≒「OPSの積バージョン × 機会」になります。
- ベーシック版のBは、盗塁や一塁から三塁への進塁ではなく、打者が安打によって得た塁打数です。
- ベーシック版は、主に打撃結果から得点創出を推定する式です。
- 盗塁などを含めたい場合は、別の拡張版RCを用います。
RCは、OPSのような「足し算の総合指標」ではなく、「掛け算で得点を見積もる」点が大きな特徴です。
架空打者で手計算してみる
架空の打者「Aくん」のシーズン成績を使ってベーシック版で計算してみましょう。
打数(AB)=500
安打(H) =150(うち本塁打20、二塁打30、三塁打2)
四球(BB)= 60
TB = (150-20-30-2)×1 + 30×2 + 2×3 + 20×4
= 98 + 60 + 6 + 80 = 244
A = 150 + 60 = 210
B = 244
C = 500 + 60 = 560
RC = (210 × 244) ÷ 560 = 51,240 ÷ 560 ≒ 91.5
Aくんはシーズンで約91.5点を創出した、と読みます。これは「Aくん1人が打席で生み出した期待得点」のイメージです。打点と違って前後の打順に影響されず、自分の打撃結果から推定できる点が、この指標の大きな魅力です。

RCには複数の式がある:SB版・Technical版・1.02掲載版
RCには、ビル・ジェームズや各統計サイトが提示する複数のバージョンがあります。代表的な構成を整理します。
| バージョン | 主に含む要素 | 用途 |
|---|---|---|
| ベーシック版 | 安打・四球・塁打・打数 | RCの考え方を理解する入門用 |
| 盗塁を含む版(SB版) | ベーシック版 + 盗塁・盗塁死 | 走塁の一部も反映したい場合 |
| Technical版 | 死球・敬遠・犠打・犠飛・併殺打なども含む | 詳細な攻撃記録を使う場合 |
| 1.02掲載版 | 1.02公式が定義する詳細式 | NPBで1.02の数値を読む場合 |
大切な注意点は次のとおりです。
- RCには複数の計算式が存在します。
- 同じ選手・同じ年度でも、使用する式によってRCは一致しないことがあります。
- 自分でベーシック版を計算した値と、Baseball-Referenceや1.02で表示される値をそのまま比較しないでください。
- 実例を引用するときは、どのサイト・どの式のRCかを明記しましょう。
盗塁を組み込んだ「SB版」
A = H + BB - CS
B = TB + 0.55 × SB
C = AB + BB
SB : 盗塁、CS : 盗塁死
盗塁は1個あたり0.55点分の進塁価値があると見なされ、盗塁死はAから引きます。
テクニカル版(Technical RC)
テクニカル版ではさらに敬遠(IBB)、死球(HBP)、犠打(SH)、犠飛(SF)、併殺打(GIDP)などを取り込みます。式は長くなりますが、考え方は「A(出塁)× B(進塁)÷ C(機会)」のままです。
A = H + BB + HBP - CS - GIDP
B = TB + 0.26 × (BB - IBB + HBP) + 0.52 × (SH + SF + SB)
C = AB + BB + HBP + SH + SF
細かく見えますが、「四球も進塁の一部」「犠打・犠飛も走者を進める」などの事実を足し込むためのリファインです。
RC/27・RC/G:打席数の違いをならして見る方法
RCは累積値なので、出場機会が多い選手ほど数字が大きくなります。打席数の違いをならして「効率」を見るには、RC/27(またはRC27)やRC/Gといった派生指標を使います。
RC/27 = RC ÷ (打席で作ったアウト) × 27
打席で作ったアウト ≒ AB - H + CS + GIDP + SF + SH
- 27は1試合9イニング × 3アウトの数字です。
- 「この打者を9人並べた打線が1試合で何点取るか」というイメージで読めます。
- ただし、分子に使うRCの式やアウト数の定義によって表示値は変わり得ます。
- 1.02では RC/G として掲載され、公式ページに算出式が示されています。
実例:公式確認済みのRC記録
RCの実例は、同じ提供元・同じ式で確認できるものに絞って掲載します。
歴史的な例:ベーブ・ルース1921年のRC 243
ベーブ・ルース(1921年・ヤンキース)は、Baseball-ReferenceのRC記録でシーズンRC 243を記録しています。なお、この年のヤンキースの本拠地はヤンキー・スタジアムではなくポロ・グラウンズで、ヤンキー・スタジアムの開場は1923年です。
- 選手:ベーブ・ルース
- 年度:1921年
- RC:243
- データ提供元:Baseball-Reference
- 区分:Baseball-Reference掲載のRC値(ベーシック版の自作計算ではありません)
現代MLB・NPBの実例について
現代の選手についてRCの具体値を引用する場合は、Baseball-Referenceの選手ページや1.02のリーダーボードから、対象年度・出典・式が確認できる値のみを掲載することをおすすめします。同じ選手でも、サイトや式が違えばRCの値はずれます。

RCで分かること・分からないこと
RCで分かること
- ベーシック版RCは、安打・四球・塁打など主に打撃結果から得点創出を推定します。
- 拡張版RCでは、盗塁・盗塁死など一部の走塁要素を反映する式もあります。
- 「点」という直感的な単位で打者の貢献を語れます。
RCで分からないこと
- 現在の走塁総合指標のように、追加進塁全体を詳細に評価するものではありません。詳しくはBsRを参照してください。
- 守備や投球は、RCには含まれません。
- 球場補正・リーグ補正は入っていません。クアーズ・フィールドのような打者有利球場と投手有利の球場でRCを単純比較するとフェアではありません。
- 累積値ゆえ、出場機会の差に左右されます。効率比較には RC/27 や RC/G を使いましょう。
選手の総合貢献を見る場合は、WARなどの総合指標と使い分けると理解しやすくなります。
RCからwRC・wRC+へ:現代の打撃評価との関係
RCは、打者の得点創出を点数で推定する古典的な考え方を提示しました。現代の打撃比較では、その考え方をリニアウェイトと球場・リーグ補正で精緻化したwRC・wRC+が使われることが多くなっています。
- wRC:FanGraphsは、wRCをBill JamesのRCを改善した指標として説明しています。打席結果の価値を適切に重み付けするwOBAを基に、得点創出を累積値で表します。
- wRC+:wRCの考え方を基に、球場やリーグの得点環境を調整し、平均を100として比較できるようにした指標です。
- 異なる時代・球場・リーグの打者を比較したい場合は、RCよりwRC+の方が扱いやすいです。
RCを理解しておくと、現代の wOBA・wRC・wRC+・WAR の系譜が頭に入りやすくなります。RCは現代の得点創出指標を理解するうえで、重要な出発点です。
NPB・1.02でRCを見るときの注意点
NPBの成績表を使って、ベーシック版RCを自分で計算することはできます。一方、1.02公式が掲載するRCは、ベーシック版とは異なる詳細式を用いています。
- RCには複数の式があるため、1.02掲載値と自作RCを混同しないでください。
- 比較するときは、使用する式が同じかを確認しましょう。
- 球場環境を含めて打撃力を比較したい場合は、1.02が公開するwRC+のようなパークファクター補正済み指標を使う方が、初心者には扱いやすいです。
参考:1.02掲載のRC式(イメージ)
1.02掲載のRC
RC = { (A + 2.4 × C) × (B + 3 × C) ÷ (9 × C) } - 0.9 × C
A・B・Cの詳細な定義は1.02公式ページで確認できます。最新の式や定義は、必ず1.02公式ページで再確認してください。
FAQ:RCについてよくある質問
Q1. RCとRBI(打点)は何が違うんですか?
RBIは「自分の打席で実際に生還した走者+自分の本塁打」を数えた事実ベース、RCは「打者個人の打撃成績から推定される創出得点」のモデル値です。打点は前の打者が出塁してくれないと稼げないので、打順や打線のせいで過小・過大評価されやすい一方、RCは打者個人の能力を切り出します。
Q2. RCはOPSと何が違いますか?
OPSは「出塁率+長打率」という足し算の率の指標、RCは「出塁×進塁÷機会」という掛け算の累積点数指標です。OPSは比較しやすい1つの数字、RCは「総得点貢献を点で語れる」点が強みです。
Q3. RC/27の「27」は何ですか?
9イニング × 3アウト = 27アウト、つまり1試合分のアウト数です。「この打者9人で打線を組んだら1試合何点取れるか」のイメージで読める指標になります。ただし、分子のRCの式やアウト数の定義によって表示値は変わるため、サイト間の単純比較には注意してください。
Q4. ベーシック版とテクニカル版、どちらを使えばいいですか?
ざっくり理解にはベーシック版で十分です。盗塁・敬遠・併殺などをきっちり評価したいときはテクニカル版を使い、現代の精度を求めるならwOBA・wRC+に移行するのが王道です。
Q5. RCはどう比較すればいいですか?
RCは累積値なので、同じ数値でも打席数や得点環境によって評価は変わります。年間RCは同じ年度・同じリーグ・同じ計算式の選手同士で比較しましょう。打席数の異なる選手の効率を比較する場合はRC27またはRC/Gを、球場やリーグ環境を調整して打撃力を比較する場合はwRC+を見るのが扱いやすいです。
まとめ
RC(Runs Created)は、「打者は何点をチームに作ったのか」という素朴な問いに、シンプルな掛け算で答えるビル・ジェームズの古典的指標です。
- 基本式は
(出塁 × 進塁) ÷ 機会という3ピース構成です。 - ベーシック版・SB版・Technical版・1.02掲載版など、複数の式が存在します。
- 球場補正・リーグ補正は入っていないため、年代や球場をまたぐ比較にはwRC+が扱いやすいです。
- 効率比較は RC/27 や RC/G を用います。
RCを理解した今、ぜひwOBAやwRC+、走塁のBsR、総合貢献のWARにも踏み込んでみてください。
参考文献
- MLB Glossary: Runs Created (RC)
- Baseball-Reference Bullpen: Runs created
- FanGraphs Library: wRC and wRC+
- 1.02 Glossary: RC(Runs Created)
- 1.02 Glossary: wRC+(weighted Runs Created Plus)
- Baseball-Reference: Babe Ruth Player Page(1921年RC記録の参照)
- Yankee Stadium (1923) 開場年の参照
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